脳内変換

話は水曜の夜に戻ってしまう。

僕は例のオヤジから「大事な話がある」と呼び出せれていた。

火曜に一悶着起こしたそのオヤジ社員は、上の人らに絞られたらしく、

それを踏まえた上での「大事な話」なので、それなりの話だろうと思っていた。

そしてその夜、待ち合わせの公園に行くと、そのオヤジはなぜか照れくさそうに、

その場にいた。

その顔を見た瞬間、僕が抱いていた淡い期待は萎んでいった。


たとえばパソコンで「にしかさい」と打ち変換すると

「西葛西」と出て欲しいのに「西かサイ」と出たりしてイラっとくることがある。

そのオヤジはまさにそのイラを地でいく存在で、脳内変換がおかしい。


火曜の夜、上の人間に絞られた揚句、オヤジは「辞めます」と言った。

一応かどうかは知らないが、上の人間としては

「まぁまぁそこまで考えるな」的なことを言ったんだと思う。

だが、その「まぁまぁそこまで考えるな」をそのオヤジは

「おまえは必要な人間だ、これからは周りを引っぱってくれ」と脳内変換してしまった。


嬉しそうにそのことを話しつつも「それでも悩んでいる、お前はどう思う?」と聞いてきたので、

「○○さんに対して辞めた方がいい、残った方がいいということを言うのは失礼だと思います」

と僕は言った。

すると顔が曇りだし「いや、はっきりおまえの意見が聞きたい」と言ってきたので、

悩んだ挙句に「いろんな選択肢があると思うので、少し考えてみたらどうですか」

と言ってみた。

すると、「わかった、おまえの気持としては残ってほしいってことだよな?」と

半ば強制的な引き留めを求めてきたので、返す言葉がなく唸るしかなかった。


結局、代休を取っていた一日も振り回されただけの一日で、

やるせなく、ただただやるせない夜であった。